今日はなんだか体がだるい








中学事情


(A)―伝染病―











不二周助 現在13歳


外では蝉が鳴いている。教室内に強い陽射しが刺さる。蒸し暑い午後。額にじわりと汗がにじむ。こうゆーときとテニスの試合中は髪がうっとうしくなる。
僕は先生から配られた学級通信に目を通した。この間書かされた「夏休み中の課題」というアンケートの結果だった。1人1人ご丁寧に名前付で載せられている。中2にもなってこれは結構恥ずかしい。
僕は確か「あぁもうそんな時期かぁ」なんて考えながら書いた気がする。ホラ、あった。去年と同ように「毎日勉強する。部活で少しでもたくさんのことを覚える。」・・・まずった・・・。もう少し大人なこと書いとけば良かった・・・。来年は3年だし、まぁ次はもうちょっとしっかり書こう。

「最後の夏休みなので思いっきり楽しむ☆(来年は受験だから)」

フと、誰か他の人の書いた課題が目にとまった。クラスでは明るくて目立つ方の女子のものだった。頭はよくなかったな。何回か話したことがあるけどそんなに仲いいほうじゃないし。
最後ねぇ。まぁそう言えなくもないけど。どうせこのコは来年の今ごろ も勉強してないんじゃないかなぁ。
でもきっと僕は勉強してるな。ってゆーか絶対してる。だから本当コレが最後かも・・・。まぁどうせクラブに明暮れて終わるんだろうけど。去年もそうだったし。彼女つくるヒマもないよ。女テニともそんなに交流ないんだから、他の部活となんて・・・どうしてこんなに希望薄いんだろう・・・。背も伸び悩んでるし、裕太にまでぬかされちゃいそうだし・・・。ってゆーかもうそろそろぬかされてるかも・・・。まったく、なんで同じDNAのはずなのにこうなるんだか。あ―も――。何でこんなに熱いんだろ。


2月29日生まれ  B型
 

HRは実に退屈なものだった。先生が最近校内で起こってる問題について話していた。確か、喫煙や飲酒などあったと思う。しかし僕は熱さでまいってそれどころじゃなかったし、そんなことたいした問題じゃないと思っている。
「フジぃ〜〜〜」
悲痛な声が近づいてきた。声の持ち主は同じクラスの菊丸英二。僕はエージと仲が良かった。クラスもクラブも一緒だから、1年の時から何かといっしょに行動することが多くて、自然に仲良くなったのだ。
彼は基本的にいつも元気だが、今は死ぬ一歩手前ってカンジだった。
「どうしたのエージ?なんか死にそうだけど・・・」
僕は一応聞いてみたけど、まぁ理由はわかりきっていた。
「熱いよ〜〜。フジィ〜〜。何で2年6組ってこなに日当たりいいなさ〜。ってゆーかフジ平気なの?」
苦しそうに呟きながらエージは僕を上目遣いに見てきた。上目遣いといってもエージはいつのまにか僕よりデカくなっていたので、うなだれてだらついているエージだから上目遣いなのだ。その行為と事実が熱さで少し痛む頭には嫌味に思えたようで、僕はいささか強がってみた。
「そう?そんなに熱くなくない?」
何て言っていつも通り笑ってみたけど、なんだか自分でもわかるほどの苦しい強がりだった。鼻の頭ににじんだ汗と額にはりついたぬれた髪がなければ結構イイセンいってたかもだけど。
「まったーvv強がりばっかいちゃってぇーvvこの赤くなったほっぺたは何かなぁ〜?フジクン??vv」
案の定、僕の強がりはバレバレで、エージは腕で僕の首をしめてきた。なんだよまだまだ余裕じゃん。でもこんな蒸し暑いときにくっついてほしくはないんだけど・・・。ってゆーか顔赤いかなぁ?
「うひゃあ。嘘ですゴメンナサイー!ホントは熱くて死にそうですー!僕は冬生まれですーぅ!!」
なんだかエージとのやりとりも楽しくなってきて、僕は少し熱さを忘れられるかなって思い始めていた。
「ねぇねぇ、エージくん不二くん!」
いきなり可愛らしい、つくったように可愛らしい、女のコの声が割って入ってきた。僕はちょっと面食らって、一瞬ひるんでしまったが、エージは別にそうでもないらしく、いつも通りの楽しそうな笑顔をサービスしながら返事した。
「にゃーにーぃ?」
「あのね、テニス部の新しい部長って誰がなりそう?」
さっき、目に付いた課題を書いた娘だった。目が大きくてくりんとしていた。僕の好みじゃなかった。後ろにはいつも一緒ににいる友達の女子がいた。少し怖いカンジの子で怒らせたくはないタイプだった。
「きっと手塚だよ」
エージではなく、何故だか僕が答えてしまった。しかもこれまた何故だか、自分でも信じられないくらい言葉はさわやかに口から出ていった。余韻すらも残らないくらいだった。日常の会話の中で、それだけが妙に不自然だった。
「ふ〜ん。有り難う」
そのコは興味なさそうな素振りで足早に友達のところへ戻っていった。そして2人は連れ立って、窓側にいた僕らの傍からドアに向っていった。
「あのコ手塚目当てっぽくなーい?」
エージが言った。僕もそう思った。これといってはっきりした好意の証はなかったけれど、なんだか僕もそんな気がした。
廊下に出ていったさっきの娘の、本当ならこんなところまで聞こえるはずない声が聞こえた。しかもそれはまるですぐ隣りで話し掛けられているように、あんまりヨク聞こえ過ぎて、耳に残って離れなかった。

「手塚くんが男テニの部長かぁ。だったらアタシ女バレの部長、なっちゃおっかなぁ。だってホラ!代表委員会とかクラブ委員会で一緒になれるしvv」

気持なんてそんなモノかもしれない。
理屈や相手を無視して知らない間に伝わってしまうものなのかもしれない。



好きなものは辛いもの 


午後の授業が終わっても、相も変わらず蝉は鳴きつづけ、熱さは僕の体力を奪いつづけた。こんな状態でクラブなんかに出たら、そう、まずは最初のグランド30週・・・イヤ50週かもしれない・・・をした時点で僕は眩暈を起こし頭痛にみまわれもしかしたら心臓が口から出るかもしれない。のどはいつも以上に渇いてヒリヒリいうことだろう。まぁ、 運動系の部活に入っているんだから当然と言えば当然かもしれないけど、今日は本当にそんなことは避けたい。明確な理由があるわけじゃないんだけど、生理的本能的にどうしても今はテニスをやる気分じゃない。っていうより動きたくない。
そんなことを心の底から思いながらも、僕はしょうがなく玄関に向う廊下を歩いていた。きっとものの5分もすればきっと僕は部室で着替えを 始めていることだろう。もう逃げられない・・・・。

「不二君?ちょっといいかな?」

同じような考えをめぐらせる僕の脳ミソは知らない娘の声をキャッチした。
「えっ・・!?不二ですけど・・・あなたは・・・?」
「あっ、私新聞部の部長で3年の木村っていうんだけど、不二君に今度新聞に載せるインタビューカード書いてもらいたいんだけど・・・」
軽い自己紹介をしたその娘は眼鏡をかけていて、なんだか威張ったようなカンジの人だった。
「新聞読んでるよね?その中のコーナーで話題の生徒にインタビューするコーナーがあるんだけど・・・まぁ軽いプロフィール程度のことだから!お願い!」
僕はこのナルシストそうな先輩がどうも好きになれなかったケドなんだか、きっとこの人彼氏とかいないだろーから中学校最後の夏も1人で過ごすんだろうなぁ・・・などと微妙に同情してしまいむげに断れなかった。
そしてなによりこれを口実にクラブに休むとまではいかなくても遅れられる。僕は瞬時にその事実を計算して、そう、初対面の人間に向ける笑顔の種類でも最高級のものをサービスした。
「いいですよ。僕なんかでいいならいくらでも書きますよ。」
彼女はありがとうといって足早に去っていった。どんな人でも忙しいってことはあるんだなぁと思いながら僕も職員室へと足を急がせた。



趣味はサボテン収集


「失礼しました―」
顧問の竜崎先生には係活動で新聞関係のことだと言ってきた。僕は本当に新聞部の為にひと頑張りするんだから、係活動くらいの嘘罪にならないだろう。
そして僕は今度はダラダラと理科室への廊下を歩き始めた。本当は教室で作業するのが普通なんだろうが、僕は理科室を使うことに決めていた。あそこはうちの学校ではクーラーのきいた校長室、職員室、保健室の次に涼しい場所だった。大きな樹の影に隠れていて日当たりは極上に悪かったし、理科室ならではの雰囲気が涼しさを倍増させた。夏はあそこは人気のスポットだが、理科準備室にも何故だか鍵のないドア一つでつながっているため、いつもは鍵がかかっていて生徒は自由に出入りできなかった。
しかし今の僕はこの学校に2つしかないだろう理科室の鍵を持っていた。さっき職員室に行ったとき竜崎先生に、ついでに今日の理科の時間に忘れてきた資料集を取ってきたいと言ったところ、なんと理科室の鍵を渡してくれたのだ!しかも帰るときについでに返してくれればいいと・・・。これは僕にも予期せぬ幸運だった。きっといつも頑張っている僕に神様がくれたプレゼントなのだと思った。勿論僕はこのチャンスを見逃すわけはなく、この鍵を有効利用させていただくことにした。
ガチャッ――――・・・ガラガラガラガラ・・・―――――
鍵を開けてドアを開けると意外と大きな音がしてシーンと静まり返って いるこの階にやたらと響いた。
理科室は本来、科学部の部室の役目もはたしているが案の定、科学部は休みだった。この部活はたいがい休みで、この部活の活動風景こそが青学七不思議のひとつなんじゃないかとのウワサもある。
いつもは大人数で授業をうけるのであまり感じたことはなかったけど、 1人きりでいるとこの教室がむやみに広く思えた。
縦に長くて大きな黒い机が10個無造作に並んでいる。いつも僕らはこの机を班ごとにかこんで黒板を向いて座るのだ。
僕は先生用の黒板の前の机の真正面にある授業でいつも座っている席に丸椅子を持っていった。
机の上にカバンをおろすと中から筆箱を出してそしてまたその中からシャープを出した。シャープの芯をカチカチと出しながら僕は、さっきもらったインタビューカードに目を通した。内容はホントに簡単なプロフィール程度でこんなのものの5分足らずで出来てしまう。しかし今更文句なんて言ってもどうなるものでもないし、仕方なく僕はできるだけ丁寧に時間をかけてこのカードを書いてそのあとここで少し時間をつぶすことにした。ドアには鍵をかけておいたから誰かが入ってくるなんてこ とはまずないだろう。普段じっくり理科室を探ったことなんかなかった から僕はなんだかワクワクしてきた。もしかしたらヤバイモノの1つや 2つ見つかるかもしれない。
そんなことを考えながらインタビューを書こうと机に腕をのせると僕は 黒い机のヒンヤリした触り心地に思わずドキっとした。熱さでいつもよ り微妙に体温の上がった僕の体を癒してくれるような気がした。そして 僕の心に誘惑の声が聞こえた。クラブ活動のない放課後の理科室に一体 だれがやってくるというのだろう?ましてや鍵がかかっている。そして その鍵は今自分の手のなかにあるのだ。もう1つの鍵はおそらく2年理 科教師にして化学部の顧問の斎藤先生がもっているだろうが彼は今ごろ 職員室のソファーで眠っているだろう。それが彼の日課だからだ。そう、 今この理科室は僕の部屋も同然なのだ。そう考えると急にぼくは開放的 な気分になった。冷たく気持のイイ大きな黒い机の上に寝そべり、制服 のシャツの上のボタンを普段より2つも多く開けた。そして僕はその体 勢でインタビューカードへの記入を始めた。
―――名前は・・・不二周助・・・歳は・・・現在13歳・・・2月2 9日生まれのB型でぇ・・・好きなものはぁ・・・辛いもの。趣味は・ ・・?サボテン収集――――
半分ぐらい書いたあたりで僕はなんだか気持良くなってきて、眠たくな ってきた。本当に眠たくて瞼が全部開かなくなっていた。最近熱い日が 続いていた。そのせいで昼間は異常に体力を消耗していたし、夜はなか なか寝付けなかったせいだろう。僕の部屋のクーラーは今調子が悪かった。
とにかく、原因は色々考えられた。でもそんなことより今の僕にはどう なったっていいってくらい眠たいってことの方がものすごく大事だった。
――――もうちょっとだ・・・もうちょっとで全部書き終わる・・・そ したら・・・・・少しだけ・・・・少しだけ寝よう・・・・・・・・ほ んのちょっとだけ・・・・・・―――――
そしてとうとう最後の質問にたどり着いた。



そして僕は浅い眠りへと落ちていってしまった・・・・



浅い眠おかしな夢を見た。その夢の舞台は何故だかこの理科室で、僕は 何故だか手塚に怒られていた。何故だか理由は知らないけど手塚は凄い 剣幕で僕を怒鳴りつけていて、そしてまた何故だか僕はずっと違うとが 違うと弁明し続けていた。手塚の夢を見たのは初めてのことだった。 場面はかわって今度は僕は学校の中を殺人鬼から逃げ回っていた。殺人 鬼てゆーのはこの前見た映画に出てきた奴で名前は忘れちゃったけど、 すごい怖くて一緒に見ていた裕太にしがみついちゃったくらいだ。そし てその夢の中の学校には僕と殺人鬼以外誰もいなくて、僕はどっかの準 備室みたいなところに逃げ込むんだけどやっぱり殺人鬼がやってきて追 い詰められてヤバイッってところで夢は終わってしまった。



――――――ガチャッ・・・・・ガラガラガラ・・・・―――――――

僕は部屋中に響いた乾いたドアを開ける音で反射的に起きあがった。自 分は寝てなんかいなかったという風にめいっぱい瞳を開けて。でもそれ がかえって不自然だったことは言うまでもない。
ドアの方に目をやるとそこには手塚が山積みのプリントを抱えて立って いた。僕的には今会いたくなかった人物ベスト5に入っていた。
ヤバイッ!こんなトコでしかも机の上で居眠りしながら部活をサボって たなんて何言われるかわかったもんじゃない。一応先生には係活動だと 報告しておいたけれど、どうひいきめに見たって今の僕は係活動に勤し む勤労少年には見えないだろう。部長や先生にチクられるだろうか・・ ・もしかしたらこの場でお説教かもしれない。さっきぼんやりと手塚に 怒られる夢を見た気がするけど、あぁ!正夢だったなんてっ・・・!!
しかし気がつくと手塚は良くない考えをめぐらせて断崖絶壁に立たされ ている僕のことをほとんど無視して黒板の前にある教師用の机の上にダ サッという音をたてて山積みのプリントを置いていたいるところだった。
僕はこのなかなか意外な展開に半分安堵、半分信じられない思いでいた。
ポカンとしている僕を手塚国光はやっぱり無視し続けて、1人黙々とプ リントの組み分けらしきことをやっていた。
「・・・手塚・・・?」
やっとのことで出した声は自分が考えていたのよりずっと小さくて、な んだか惨めにおもった。
そして僕のちっぽけで情けない声に手塚は顔を上げた。手塚が顔を上げ てから、僕は声をかけたことを後悔した。
真っ直ぐに僕を見る手塚の目がいつもより冷たかった。ムネのあたりが チクチクした。思わずそこを押さえてもがきたくなったけど、指先まで 金縛りにあったようにでまるで動こうとしなかった。いや、もしかした ら本当は僕が動きたくなかったのかもしれない・・・。
・・・・軽蔑された・・・・。とにかくそれだけはなんとなくわかった。 クラブをサボってこんなところで鍵をかけて眠っている僕にだろうか、 それとも・・・・・・って、鍵!!そうだ忘れてた!!この部屋には鍵 がかかってたはずなのにどうして・・・・!!!
「ねぇ手塚。理科室って鍵かかってたはずなんだけど・・・・」
僕は今までの金縛り状態が嘘のように話せた。脳が急激に働き出すのが わかった。
「理科の斎藤先生からこのプリントを整理して理科室に置いておけと、 鍵を預かったいたんでな」
手塚はそう言うと僕に制服のポケットから鍵を出して見せてくれた。目 つきは相変わらず鋭かったけど、さっきよりは何倍も普通だった。
それにしても忘れていた。理科室の鍵はこの学校に2つあるのだ。いや、 忘れていたわけじゃはない。油断してたんだ。まさか斎藤め、生徒を使 うとは・・・・。これできっと僕の優等生面がはがされてしまった・・・
「不二」
急に呼ばれてビックリした。とうとう説教タイムがきたかなっと心臓が ヒヤっとした。しかし手塚は特に怒った顔はしていなかった。
「お前、随分とだらしのない格好をしているな」
そう言った手塚の目が微妙に僕の胸元を見たと思ったのは自意識過剰と いうものだろうか・・・。僕は手塚の言葉でもう1つヤバイことを思い 出した。この際机の上にでんと座っているのは開き直っていいとしよう。
しかしもう1つ忘れていることがあった。今僕は暑さのせいで制服のシ ャツのボタンをいつもの2.5倍も開けていたのだ。こりゃあだらしな いわけだ。
僕はちょっとはずかしくなったが、こうなりゃヤケだ!とかさらに開き 直ってしまった。普通に慌ててボタンを閉めるのもなんだか悔しいよう な気がして、僕は少し勇気を奮ってみることにした。
「そそる?」
馬鹿だ!!言ってから後悔した。勇気の無だ遣いだ!男が男にこんなこ と言ったって気持悪いだけじゃないか!!いくら僕も手塚も顔は悪い方 じゃないって言ったってやって良いことと悪いことがある!!これ以上 手塚を怒らせたらどんなことが待っているか、ちょっと考えたらわかり そうなものだった。
「・・・・・・」
手塚は何も答えなかった。こりゃあ怒ったかな。でも僕にいてみれば笑 いながら気持ちよく否定してくれた方が嬉しかったのに。でも、もしこ こで肯定されていたら・・・?ちょっと悩む。手塚は顔もイイし僕の処 女をささげても別にいいかもしれない。しかし!それはあくまで僕が女 だったらの話だ。まぁ、確かにちょっと人の道を外れてみるのもおもし ろいかもしれない。興味もあるし好奇心だって湧く。妊娠だって気にし なくていい。でもこの場合絶対僕が痛い思いをするので、やっぱりこの 考えはここで止めておこう。
「不二はどうしてここにいた?」
おかしな妄想を膨らませる僕を知ってか知らずか手塚は全然関係ないこ とを訊いてきた。でもこの様子じゃ怒られることはなさそうだ。とりあ えず安心。
「あっ、えっと・・ねぇ、新聞部の人に新聞に載せるインタビューカー ド書いてくれって頼まれて・・・・」
そんなことを説明しながら僕は、本当はさっきの新聞部の部長とか言う 人も手塚が目当てで、手塚にこのカード書いてほしかったんじゃないか なって思った。でも手塚は見た目的に怖いし近づきがたいカンジだから、 きっとしかたなく僕に頼んだんだろうと、考えた。じゃなかったら僕な んて、わざわざ新聞に載せるようなヤツじゃない。なるほど・・・ね。 んっ・・・?そういえば・・・・インタビューカード・・・全部書き終 わったよな・・・。うん。書き終わった。書いた書いた。
「なぁ、不二」
「えっ?何?」
手塚は持っていたプリントを机の上に置いて僕の隣りまでやってきた。 僕は少し驚いて目を見張ったが、それはホントに一瞬で、きっと手塚は 気付かなかっただろう。なんと言ってもこの男は人の顔を見ることはめ ったにない。
「なんで机の上なんかにのっているんだ?」
手塚はそう言って黒い机を指でなぞった。僕より一回りは大きったかも しれない。ゴツゴツとしていて長い指からなんとなく目が離せなくなっ た。すると指先から徐々に体が凍りついきたみたいに動くことを拒否し だした。まるで手塚の指に催眠術でもかけられたかんじだった。
でもこのままだったらきと怪しまれる。僕は何度も口をパクつかせ、や っとのことで声を出した。
「冷たくて気持良かったから・・・」
どうか手塚が僕を見ていませんように・・・。願わずにはいられなかっ た。なのに手塚は僕を真っ直ぐ見つめてきた。見ないで下さい。心の中 で何度も願ったのに。強く願ったことほど叶わないものなんだろうか。
手塚が不振そうな顔で僕を見ている。いつも誰と目を合わせても全然平 気なのに何故だか今はすごく恥ずかしい。同性なんだけど、男同士のは ずなのに緊張する。手塚はなまじ顔がイイから・・・。なんだか女のコ になった気分だ。手塚に見つめられたら、女子はこんなカンジなんだろ うか・・・。
「顔、赤いぞ。具合でも悪いのか?」
気付かなかった。顔赤くなってたんだ・・・。ダメだ・・・。もう、そ んなこと言われたら余計恥ずかしくなる。顔赤いなんて言われたの、初 めてかも知れない・・・。
言葉がでない。無言でいたら余計怪しいのに。答えられない。のどがカ ラカラに渇いて、心臓が口から出そうだ。瞼がだるくて閉じてしまいそ うだ。今目を閉じたらきっと眠れるだろうな。頭がガンガンする。思い っきり後ろからたたかれたみたいだ。痛くて、ホントに痛くて・・・も うだめかもしれない。
一瞬体が宙に浮くような感覚が起きた。空を飛んだのかと思った瞬間、 後頭部にニブイ痛みがはしった。衝撃だった。
それにしてもなんで今日はこんなにも体中が痛いんだろう。特に手塚に 会ってからは痛みとの戦いだった気がする。こんなことなら部活に出て いた方がマシだったかも。のどは痛くなるし、頭もガンガンなっている。 顔が赤いなんて言われるし、おまけに胸が痛い。心臓がおかしくなった みたいだ。・・・・アレ待てよ・・・でもこれってほとんど手塚に会っ てからじゃあ・・・。


この病気の名前を僕は知っていた。きっとあの娘達のがうつったんだ・・・。
サイアク・・・。カワイそうなのは僕だけじゃないけど。
なんでこんな気持僕に伝わったんだろう。
きちんと真っ直ぐ、手塚の元へ届けばよかったのにね。
どうして僕が引き継がなきゃならないんだろう。
まだみんな諦めたわけじゃないだろうに。・・・・
僕まで巻き込まないでおくれ。
こんな痛みと、毒々しくて女々しい感情に支配されたりなんかしたくないんだから。
堕ちてはいけない、後戻りできなくなるから。
眠ってはいけない、後戻りできなくなるから。
僕の意識は海の底に潜っていって、見えなくなってしまいそう・・・

次に浮上するのは僕じゃない僕じゃない僕じゃない僕。
見失ってはぐれてしまって溺れていくのかな・・・・・

意識がどこかにいってしまう―――――――



本能?無意識?






真上に光の気配がして僕は無理矢理まぶたを開いた。シンプルな蛍光灯の明かりが、僕を見下していた。まぶしくて思わずもう一度目を閉じる。
落ち着くと、なんだか体が熱いことに気付いた。全身のけだるさは寝起きだろうと無視することもできたけれど、異常に高い体温と湿ったTシャツ、汗ばんだ額にはりつくぬれた髪にノドがヒリヒリする感覚、なにより表現方法が見つからないくらいの頭痛は1秒すらの休むヒマさえ与えず僕に苦しませ続けた。
苦し紛れにつかんだシーツは掴みなれた感触がした。ココは僕の部屋だ。おかしい・・・さっきまで確か僕は理科室にいたと思ったけれど。手塚と話している夢だったのかな。でもどちらにせよ記憶の方は、なんだか中途半端なところで終わっていて、なんだか意味不明だ・・・・。
ガチャッ―――
静か過ぎるほど静かだった僕の部屋にドアを開ける音が割り込んできた。目を開けてそちらの方を見てみると、弟の裕太が立っていた。手にはなにやらアイスノンらしきものを持っている。裕太が部屋に入ってきた瞬間目が合った。
「眼、覚めたのか?」
「んー・・・ってゆーか何で僕こんなことになってるの?」
僕は弱々しく笑ってみせた。裕太は少し呆れた様子だったけど、そのまま僕の方に歩いてきてベットの横にある机のイスに座った。
「あのなぁ、やっぱ覚えてないのかよ。兄貴理科室で倒れたんだって!それでビックリして保健室つれてったらすんごい熱だったからって・・・手塚さんがつれて帰ってきてくれたんだぜ!」
なんだか全然覚えてない。少し悔しいかな。しかも裕太は弟のクセに一丁前に「手塚さんにちゃんとお礼言っとけよ!」なんて言ってるし。
でも、ってことは理科室で手塚と話してたことは夢じゃなかったわけねぇ。ヤバイかも・・・夢なんだか現実なんだかよくわかんなくなってきたし。理科室で倒れたあとのことも、当たり前かも知れないけどなんにも覚えてないし勿論思い出せない。
「ほら、アイスノン。水枕に入れる氷きらしちまったから」
「えぇ〜、アイスノン固いから遠慮したいなァ。別にアイスノンなんかしなくたってもう大丈夫だって」
僕は汗をびっしょりかいていたからきっともう熱が下がってきてるだろうと思った。別に解熱剤を飲んだりはしていないはずだけど・・・日頃から頑張って体力をつけてきたのがココで役にたったのかなぁ。
「バカかテメーは!!んな赤い顔してみえみえなんだよ!」
そう言って裕太は弟のクセして僕のこと怒鳴って、無理矢理もイイトコに水枕とアイスノンを交換してきた。嫌だったのは確かだけどなんだか怒鳴るほど心配されているのが嬉しくて、抵抗しなかった。
裕太は僕が大人しくなったのを確認して部屋から出ていった。僕は裕太の足音が階段を降りていくのを待って起きあがった。案の定、僕のカバンは机の上に置いてあった。動くのは結構苦しかったけれどなんとか僕は机の上からカバンをとって中身をベットの上にぶちまけた。
どうやら理科室の机に置いておいた物は手塚が全部カバンに入れておいてくれたようだ。そうじゃなかったらエージに頼んで取って来てもらわなければいけないところだった。だってしばらく学校は休まなきゃいけないみたいだし。
ぶちまけた中身をよくみてみるとなぜだか理科室の鍵まで入っていた。手塚ならしまう段階で気付きそうなものだけど・・・。どちらにせよこの鍵は、風邪が直ったら職員室に戻さなきゃならない。きっと困るだろうし。
僕はぐちゃぐちゃの荷物の中から筆箱とインタビューカードを掘り起こした。このひとつひとつに手塚が触れたのだと考えるだけで熱が上がってしまいそうになる。でもこの感情をなんだか受け入れてしまってもいい気になっている自分がなんだか少し恥ずかしかった。こんな・・・まともじゃないよね、僕。
筆箱からシャープを取り出して芯を出す。親指が電流を流したような感覚を覚える。シャープに付いている消しゴムでインタビューカードの一列を消していく。まるでテストで答えを迷ったときみたいだった。なかなか消えなくて少し力を込めると、紙が少しグシャグシャになっちゃって、少し慌てた。やっとキレイに消えたその一列にゆっくり丁寧に新しい言葉を書いていく。
熱で頭がおかしくなっているんだと、今更ながら僕は僕に言い聞かせていた。胸のあたりがチクッとした気がした。なんだか無性に、誰かに謝りたい気分だった。
気がつくと時計は夜の9時をまわっていた。そんなことにすら今まで気付かなかった自分自身に少し驚いた。
静かな部屋の中では、外にいる蝉たちの鳴き声が耳鳴りのように響いていた。








・・・・・・―――今、好きな人がいます。―――





マジでいきます。―――






この中学事情と言うシリーズを書き始めたのは、中2の頃でした。もう5年も前のことです。
前のサイトにあったものを、完結もしていなかったし、個人的にも気に入っていたからと言う理由で、そのまま持ってきました。
あの頃書いたままの姿で、ほとんど加筆修正もせずにそのままアップしているので、読みにくいかったり、今でも拙い文章がさらに拙かったりしますが…
それはそれでなんとなく、面白いし新鮮だなぁと居直ってみました。
今度こそはきっと最後まで完結させます。
なのでアップしていくにつれて途中からイキナリ雰囲気の違うものになってくると思いますが、予めご了承ください。
あの頃同じ歳だった彼らの年齢はとっくに追い越してしまったのですが、できれば書いている間は、14歳の頃の気持ちを取り戻したいです。
成長とともに、自分でもハッとさせられるような瑞々しさは、どうして消えてしまうのでしょうね?





モドルヨ!