その日夕方から町に出て、ジェラードを食べに行く予定だった雲雀は、薄暗い昼過ぎに鳴った電話を取って、何も言わずにそれを切った。 放るようにして(実際は放ってはいないけれど)置いた受話器から、冷たい指先を離すより先にもう一度けたたましいベルが鳴り出した。 雲雀は一瞬躊躇したように瞳を泳がせたが、程無くしてまた受話器を耳に当てた。 「取るなら切るな」 混線しているのか、スピーカーのもっと遠くの方から、女性の歌声が途切れ途切れ流れてくる。その合間を縫うように、獄寺が不機嫌そうな声で怒鳴った。 「山本の葬式は昨日のうちに一部の幹部だけで済ませちまったから…お前に連絡してやれなかったのはすまなかったと思ってるけど…こっちも色々あってな。発見が遅れたせいで死体の傷みもひどかったし、こともことだからできるだけ身内で…な」 悪魔で冷静を装うというか、むしろ時間が経ったから慣れたというか、どちらにしろその声は震えることもなくただ乱暴に言葉を投げる。ただその一方では、顔も見えないのにその空気から雲雀の機嫌を窺おうとするような、そんな慎重さも感じられた。 「犯人は今ボンゴレが全力を挙げて捜してる最中なんだが…どうも何の痕跡もなくてな…難航しそうだぜ」 雲雀は震えたような微かな吐息を吐くと、受話器越しの獄寺に気取られるよりもさきにそれを飲み込んだ。指先がひどく冷えていた。 「…お前もさ、ちょっとこっち戻ってこいよ。そっちの仕事は実際もう片付いてんだろ?アイツも…山本も、お前に花の一つでも…」 もう一度、今度は先ほどよりも力強く受話器を置いた。閑散とした室内に、人を驚かせる音が響く。雲雀がその整えられた爪の先を離しても、電話が再度鳴り出すことはなかった。 先ほど、一回目の電話で、獄寺が静かに告げた言葉が雲雀の耳の奥で木霊していた。 『山本武が殺された』 氷のように冷えた指先を、ゆっくりと握りこむ。悴んだ手は自分の物ではないようで、不自然な動きをした。 その日は朝から雨が降り続いていた。 太陽が消え行く様子さえ見せずに、夜が忍び寄ってきた頃、雲雀は町のジェラード屋ではなく、ローマ行きの飛行機の中にいた。 |